「坂口安吾」のことを調べているうちに何故か「阿部定」のことが出てきてしまった。
若い人は知らないかも知れないが、昭和の猟奇事件と言うことで映画にもなった実在する人の話だ。
いっぽう、「嫌われ松子」は小説の中の人物。
私は、この二人が、どうもだぶって見えてくる。
どこをどう間違ったのか数奇な運命をたどってしまった二人。
何事もなく平穏な生活を営み、ごく普通な人生を歩んでいたかもしれない。
阿部定は比較的に裕福な畳屋の娘だった。
松子は普通の家に育ち、大学も出て教師になっていた。
人間の人生なんて、わからないもの。
どこかで歯車がずれてしまうと修正がきかないのだろうか。
ふたりは人生を真っ逆様に堕落していく。
私の同僚にも、そんな人がいた。
名鉄の観光バスの運転手だった人だったが奥さんの浮気が元で(ひょっとしたら本人かも)一家離散、借金も抱え、やくざに追われるようにしてトランク一つで北陸の地に流れてきた。
この人も本来は名古屋にいて、孫にも囲まれ幸せな老後を暮らしていたはずだったが、
この北陸で淋しい一人暮らしの老後だ。
最後はどこで亡くなったのかは、はっきりしていないとのことだった。
「阿部定」ではなく偽名で、ひっそりと誰にも見取られることもなく亡くなったのだろうか。
何故か、この寒い小雪の降るなか、人生の歯車の狂った人達のことが、つい頭に浮かんだ日だった。