ゆったりと、たまには大きな風呂に入ろうと「こぶし荘」をめがけて出かけたのだが、ついまた寄ってしまった。
「法筵寺」、もう住職もいない廃寺だが、実はとんでもない歴史のある寺だ。
室町時代の五輪の塔が無惨にも散らばっている。
境内で草刈りをしている「おじいさん」がいたので話しをする。
檀家でもなく宗派も違うが、衰えていくばかりの寺の姿に自然と奉公しているとのことだった。
住職も今はいないとのこと。
元々は赤丸にあって両部神道の浅井神社を総括する寺「鞍馬寺」。
石黒氏に変わって浅井城主となった中山氏から利権争いのあげく追い出され、この地に名前まで変えて移っているのに再三、焼き討ちにまであっている。
先代の住職は哀れな死に方だったと、おじいさんは言う。
ガス業者がボンベの取り替えに来て、初めてその死に気が付いたとかで、はっきりとしたことはわからないとのことだった。
後妻に入った人は戦後の女性解放運動に走り、国会選挙に出て負け、知事選にも出て負け、その時にかなりの財産を失ったようだ。
その頃のライバルが氷見武繁氏とのことで、またまた浅井神社の本家争いの因縁が現れてくるのだった。
おじいさんと話していると急に大きな「ゴーッ」と言う音になにごとかと思うと、「新幹線」だった。
高速道路の建設だけでも驚いたのに、まさか今度は新幹線まで建設されようとは…。
おじいさんは「ただうるさいだけで何もいいことない」とこぼす。
鞍馬寺は山伏の寺で祈祷、薬の調合など行っており絶大なる権力を維持していたものと思われる。
それが今、こんな廃寺になってしまおうとは…。
ほんとうに、あっという間に新幹線ができてしまったように時の流れはあっけない。
ところで「お風呂に行かなくっちゃ」と、おじいさんに「せっかく、一生懸命に草むしりしとられるがに、手を止めてすみません」と挨拶して福岡町に入ったのだが…。
魚屋さんの前を通ると、まことにいいにおいが漂っている。
一度は通り過ぎたのだが、身体が戻ってしまった。
「すみません、あんまりいいにおいなもんで、なんの魚やろうか?」
若いお嫁さんのような人が、私が行ったり来たりしてたのを、どうやら見ていたようで笑っている。
奧のほうで、じいさんが魚を焼いていた。
「えーえ、今焼いているのはアジとサンマ」
目の前にアジの塩焼きがおいしそうに並んでいる。
すかさず「あっ、それ今お客さんが取りに来るからダメ」
結局、アジの味噌焼きをゲット。
¥350なり。
あったかい、魚を背中に背負って、もうお風呂どころではなく早く、これで呑みたく家路を急ぐのだった。